Column201302 of 川本法務事務所

体罰問題の論評いろいろ

2013-2-05

体罰問題の論評いろいろ

大阪市立桜宮高校のバスケ部の問題で大騒ぎになったかと思えば、女子柔道の日本代表チームで再び再燃した体罰問題。
ある国会議員は、「指導が情熱的になりすぎたんだろう」と言ってみたり、ある国会議員は「許される体罰も存在するかもしれない」というような趣旨のことを書いてみたりと、どうも体罰を一定レベルで容認するような雰囲気が強い一方で、体罰をした張本人はスケープゴートのように切り捨てられるという、いかにも日本的な動きがあるようで、非常に気になっています。

まず、体罰というのは何かを明らかにすると、体罰というのは「身体に対する侵害、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒」と定義されている。
身体に対する侵害、非罰者に肉体的苦痛を与える行為というのは、刑法上の暴行などの行為であり、法律的には犯罪行為です。
ここには「愛のムチ」も「指導」も、恨みからの暴力行為もすべて含まれますし、愛のムチだから許されるというようなことはありません。
基本的に、暴力行為はすべて違法だと認識すべきなのです。
まずは、これを明らかにしなければならないと思います。従って、桜宮高校の事案も、柔道の事案もどうように、これは違法行為が行われたものであり、違法行為を許すべきではないはずです。

ちなみに、過去の裁判例では、「社会通念上許される程度の軽微な力の行使は、教師に認められている懲戒権の範囲内の行為であり、体罰には該当しない」という見解が示されています。しかし、「社会通念上許される程度の軽微な力」というのは曖昧過ぎる基準であり、たとえ「軽微な力」であってもこれは許されるべきではないと理解しておくのが、時代に適っているように思います。


AKB48の「恋愛禁止」を法律的に解く

2013-2-02

AKB48の「恋愛禁止」を法律的に解く

AKB48のメンバーの一人が、男性宅に宿泊したことを週刊誌に書かれてしまい、丸坊主になってお詫びし、研究生に降格した件が話題になっていますが、この問題について、「かわいそう」、「周りの大人が酷い」という感情的な視点での議論が多く、あげくの果てには「人権侵害だ」という弁護士さんまで出てきて、どうも議論があらぬ方向に向かっている気がします。
この件を、法律的にしっかりと議論をしてみるのも面白いと思い、ここで取り上げてみました。

まず、恋愛禁止というのは、法律上の強制でも何でもなく、単にAKBという集団に属することができる人と、それを動かす人達の間の約束事ですから、「契約」です。
契約というのは、人の行動を一定のレベルで制限します。例えば、私達が会社と雇用契約を結ぶことで「平日は9時までに出勤をしなさい」という約束が発生します。本来人は、どこに行くのも自由ですが、この自由が奪われるわけです。自由を制限することの合理性は、その職業などの属性に応じて合理的制限かどうかという観点で考えていくわけです。
アイドルという職業は、人に対して疑似恋愛性を持たせることによって成立する職業です。ましてAKBというのは「会いにいけるアイドル」というコンセプトの下、ブラウン管の中のアイドルよりもより身近なところにいることが売りなわけで、ある意味「僕でも付き合えるかも」という期待を生じさせなければならないところですが、そのアイドルには特定の恋人が居るということが明らかになれば、アイドルのアイドルたる意味が無くなってしまう可能性がある以上、アイドルという職業には「恋人がいる」と思わせてはならないという制限があると考えられ、これが「恋愛禁止」ということになるのでしょう。

さて、ここで非常に重要なのは、契約には守る自由とともに、破る自由があるのです。
例えばある商品を1個1万円で100個納品する契約を結び、万が一納品しなかった場合には150万円の違約金を支払うという制裁が契約上存在したとします。その際に1個2万円で200個の発注が新たに入ったら、150万円の罰金を支払っても1個2万円を200個納品した方が得すると判断するなら、150万円の制裁を受けることを認容して契約を破棄する自由が契約者には存在します。
同様に、「恋愛禁止」の約束を破る自由がアイドルには存在しているはずです。もちろんその制裁は、もしかするとAKBでは居られなくなるというものですが、仮に恋人がAKBで送る人生以上にそのアイドルにとって大切と評価されるものであれば、恋愛をする自由は(AKBと引き換えに)誰にも邪魔されないわけです。

さて、今回の騒動では、問題のアイドルの女の子は、男性を堂々と選ぶよりも、AKBを選びました。AKBを選ぶ以上は、本来男性とそのような行動をとるべきではなかったわけで、それを考える機会を与えられていたにもかかわらず、男性宅に泊まってしまったわけですから、契約に従った制裁を自ら積極的に受けたのは契約者としては非常に立派な態度だったことになると言えると思います。
そして、問題のアイドルの女の子は、立派に先日成人式を迎えた20歳の女性、つまり行為能力者であったことも見過ごしてはいけません。

誰も人権は侵害していないですし、誰も可哀想ではありません。そして大人が悪いのではなく、事理弁識能力のある大人が判断をしたことなのです。

唯一問題があるとすれば、制裁の内容が定まっていないということかもしれません。

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